年次有給休暇は、労働基準法第39条で労働者の権利として定められています。これには罰則が規定されており、違反した場合は罰則が科せられるリスクがあります。
この記事では、年次有給休暇制度について解説し、従業員が取得してくれない場合のデメリットや取得率アップのためのヒントについても紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
働き方改革による取得の義務化に注意
年次有給休暇の概要について解説する前に、義務化について確認しておきましょう。厚生労働省の「平成 29 年就労条件総合調査の概況」では、年次有給休暇の取得率は49.4%となっており、発生日数に対する年次有給休暇の取得率の低さが問題視されていました。
このような背景のなか、働き方改革の一環として2019年4月1日の労働基準法の改正により「有給休暇5日取得」が義務化されています。
改正により、会社は年次有給休暇が10日以上付与される従業員に対して発生日から1年以内に年5日の年次有給休暇を取得させることが義務になっています。
義務とはいえ、取得日については、従業員から意見を聴取し、できる限り従業員の希望に沿った時季になるよう努める必要がありますし、また取得義務の範囲外の日数について取得時季の確認やお願いはできません。
そして取得義務の範囲内であっても、会社から取得時季の確認やお願いをおこなうことを就業規則に記載していないときは、30万円以下の罰金となるので、従業員の年次有給休暇取得率が低い会社は、「義務だから!」と従業員に詰め寄る前に、就業規則の改定が終わっているか忘れずにチェックをおこないましょう。
なお、会社が「有給休暇5日取得」の義務を怠った場合は、労働基準法違反になります。労働基準監督署による調査対象になった際は、よく確認される事項ですので、事前準備と日々の管理が重要です。
年次有給休暇制度の内容
年次有給休暇は、有給(有休)や年休などといった略称で呼ばれることもある、労働基準法の中では比較的よく知られているルールの1つですが、改めて確認してみましょう。
厚生労働省によると、年次有給休暇は「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のこと」と定義しています。
年次有給休暇については、労働基準法第39条で認められた労働者の権利なので、会社は条件に該当する従業員全員に年次有給休暇を与える義務があります。
つまり、
- 条件に該当しているにもかかわらず「うちにそんな制度はない」「正社員だけの制度」と年次有給休暇を与えない会社
- 従業員の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった会社
- 会社が5日取得義務のため時季指定を実施するのに就業規則へその旨を記載していない会社
は労働基準法違反となる可能性があります。
ちなみに労働基準法違反と指摘されても是正しなかった場合は、6ヶ月以上の懲役または取得させていない従業員1人につき30万円以下の罰金が科されます。また労働基準法違反がある場合は、助成金の申請ができなくなったり、年次有給休暇に関しては青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)によりハローワークの求人が不受理になったりすることがあります。
それでは、年次有給休暇が発生する従業員はどのような人でしょうか?
年次有給休暇制度が適用される条件
年次有給休暇制度は、最低でも以下の要件を満たす従業員全員に付与しなければいけません。要件を満たす従業員全員ですので、パートや契約社員、アルバイトであっても発生します。またこれは法律で定められた最低限のルールなので、会社によっては、従業員にとってさらにお得なルールで運用することも可能です。
【年次有給休暇を取得することができる最低条件】
- 雇い入れの日から6ヶ月間継続勤務をしている
- その期間の全労働日の8割以上出勤した
この「雇い入れの日から6ヶ月間継続勤務している」とは、会社で雇用している期間が6ヶ月継続している状態を指しています。
たとえば雇用契約上の出勤日が月5日程度だったり、シフトにより会社に来ない月があったりしても、退職するわけでもなく入社から6ヶ月連続勤務していてその期間の出勤率が8割を超えていれば、出勤した日数により年次有給休暇の対象となる可能性があります。
また全労働日は会社の営業日ではなく、雇用契約書で約束した労働日のため個々に違い、週1のパートであっても週1で約束した日の8割以上を出勤していれば、年次有給休暇が発生します。
また、「全労働日の8割以上の出勤」というのは、「出勤日数÷全労働日」で計算された出勤率を基にします。全労働日は、雇用している暦上の期間から就業規則等に規定されている休日を引いた日数です。全労働日および出勤日数にカウントするかしないかは、以下の表を参考にしてください。
カウントする | カウントしない | 就業規則による | ||
---|---|---|---|---|
両方に該当 | 出勤した日(遅刻・早退含む) 労災による休業 法律上の産前産後休業 法律上の育児介護休業 年次有給休暇 |
会社の都合による休業 不可抗力による休業 正当なストライキ 休日労働(法定休日・就業規則で規定した休日) 月60時間超過の代替休暇 |
裁判員休暇 | |
片 方 だ け |
全労働日 | 子の看護休暇と介護休暇(全日の場合のみ) | ||
出勤日 | 欠勤した日 | 慶弔休暇 生理休暇 通勤労災による休業 私傷病による休業 |
有給休暇の付与日数
週所定労働時間が30時間以上または週所定労働日数が5日である、いわゆるフルタイムの勤務の従業員の場合は以下の通りです。
有給休暇の付与日数は、従業員を雇い入れた日から起算し、勤続期間によって下記のように付与日数が増えていきます。
雇用日から起算した勤続期間 | 有給休暇の付与日数 |
---|---|
6ヶ月 | 10日 |
1年6ヶ月 | 11日 |
2年6ヶ月 | 12日 |
3年6ヶ月 | 14日 |
4年6ヶ月 | 16日 |
5年6ヶ月 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
また、アルバイトやパートといった時間給の従業員についても、週所定労働時間が30時間以上または週所定労働日数が5日ですので、1日3時間でも週5日出勤している従業員や、週4日×8時間などの週30時間以上の従業員も、条件を満たしているため正社員と同じ年次有給休暇日数を付与しなくてはいけません。
一方で、週所定労働時間が30時間未満かつ、週所定労働日数が5日未満の従業員については、「毎週水曜日」など勤務する曜日が決まっている場合は週所定労働日数を、シフトによる場合は年間の所定労働日数を基に年次有給休暇の付与日数が決まります。
ちなみに「かつ」は両方満たす場合という意味です。なお年間217日以上の場合は週所定労働日数5日の表が適用されます。逆に年間47日以下の場合は、(ほぼ休みなので)年次有給休暇が発生しなくても構わないということになります。
週所定 | 年間所定 | 付 与 日 数 |
継続勤務年数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 | |||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 | |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 | |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 | |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
年次有給休暇の取得日は原則、従業員が指定する
年次有給休暇を取得する日は、原則として従業員が指定し、会社は指定された日に年次有給休暇を与えなければいけません。
ただし、会社には「時季変更権」があるので、複数の従業員が取得日として同日を指定した場合など、事業の正常な運営が妨げられると考えられるケースでは、従業員に取得日を変更するように求めることができます。
とはいえ、単に繁忙期だからという理由だけでは、年次有給休暇の取得を阻害する行為と誤解され、会社側の時季変更権として認められない可能性が高いので、会社の正当な権利と主張することよりも、状況に応じて従業員と話し合い、協力を求める方がよいこともあるでしょう。
また、従業員が年次有給休暇の権利を行使できる法律上の期間は、付与されてから2年となっています。前年度に取得されなかった有給休暇についても、翌年度に繰り越して使えるので、注意しましょう。
【労使協定による例外】
年次有給休暇は、原則「1日単位」、「従業員が指定」することがルールとなっています。しかし、法律以上の半日単位の取得については、従業員が指定し、会社側が同意すれば取得は可能です。(ただし年次有給休暇は休暇のため、就業規則の絶対記載事項となっています。導入する場合はお互いの同意だけでなく、ルールとして就業規則への記載が必要です。)
また、以下の年次有給休暇取得ルールに関しては、従業員と会社の間で労使協定を結ぶことにより実施が可能になります。
有給休暇の種類 | 内容 |
---|---|
計画年休 | 従業員が自ら請求、取得できる休暇を最低5日残す必要はあるが、会社側が計画的に取得日を定めて年次有給休暇を与えることが可能 |
時間単位年休 | 年に5日を上限とし、時間単位の年次有給休暇を与えることが可能 |
【年次有給休暇の管理上の注意点】
会社は年次有給休暇を管理する上で、
- 年次有給休暇の発生日
- 年次有給休暇の発生日数
- 年次有給休暇を実際に取得した日付
以上3つについて従業員ごとに記載した書類を取得期間満了後3年間、保管する必要があります。つまり「5日以上期限内に取得した」という記録を会社側が用意する必要があるということになります。
システム上で管理していて、いつでも出力できるということであれば、管理簿がなくても問題ありませんが、欲しいと言われたときにその場で提出できないということは1年間で5日取得したことをすぐに証明できず、労働基準監督署が調査に来た際、是正勧告される可能性が高くなります。
また年次有給休暇の管理を楽にするために、一斉付与(入社日が違う従業員であっても同日に年次有給休暇を発生させること)をおこなう際は、前倒しでの発生が必要であり、年次有給休暇の合計上限数は40日ではなく、過去の年次有給休暇のうち2年を経過するまでの数でカウントが必要になります。具体例は以下のとおりです。
- 入社日2016年6月1日:週5日勤務
- 最初は労働基準法通りの支給だったが2020年から毎年4月1日発生へ変更
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |
---|---|---|---|---|---|
発生日 | 2016/12/1 | 2017/12/1 | 2018/12/1 | 2019/12/1 | 2020/4/1 |
発生日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 |
使用期限 | 2018/11/30 | 2019/11/30 | 2020/11/30 | 2021/11/30 | 2022/3/31 |
それぞれの期限は表のとおりです。まったく年次有給休暇を使用していない場合の2020年4月1日時点での年次有給休暇残日数は、期限が来ていない12日+14日+16日=42日となりますので、年次有給休暇の上限は40日と思い込んで有給管理台帳の作成業務をおこなうと、うっかり間違えることがあります。
そして5日取得義務の際もこの考え方と同じで、それぞれの発生日から1年です。たとえば入社日に年次有給休暇が発生する場合も、10日以上であれば、入社日から1年以内に5日使用する義務が発生します。労働基準法上の発生日から1年ではない点、一部のみ前倒して支給する場合は合計10日以上となった発生日からカウントする点はご注意ください。
なお年次有給休暇発生日が1年以内に複数回発生し、取得義務期間が重複する場合は、それぞれの期間を通算し、その長さに応じた日数(比例按分)とすることも可能です。一部のみ前倒して支給する場合や2回目の発生日から一斉付与を実施している会社が対象です。具体例は以下のとおりです。
初回 | 2回目 | |
---|---|---|
発生日 | 2019/10/1 | 2020/4/1 |
5日義務 | 2020/9/30 | 2021/3/31 |
【方法①:原則】
初回で5日+2回目で5日⇒2021/3/31までに10日
【方法②:こちらでもよい】
全期間:2019/10/1~2021/3/31⇒18ヶ月
(実際の期間)18ヶ月÷(1年)12ヶ月×(年間)5日=この期間の取得日数7.5日
※半日休暇がある会社では2021/3/31までに7.5日取得すればよい
半日休暇がない会社では、2021/3/31までに8日(利用できる最小単位まで切上)
年次有給休暇の買い取りについて
年次有給休暇の使用可能期間での買い取りは、年次有給休暇取得を阻害する行為として禁止されています。しかし、下記に該当する場合であって、会社と従業員が合意している場合は買い取ることも可能です。
- 時効になった年次有給休暇
- 退職日までに使いきれない年次有給休暇
ただし、上記に該当するからといって、会社に買い取りの義務があるということではありません。あくまで会社の善意です。
そのため、従業員から年次有給休暇の買い取りを要求されたとしても、会社はその要求を拒否し年次有給休暇の取得を推奨することが可能ですし、退職日までに使いきれない年次有給休暇がある場合は、従業員が退職日を変更するか、退職日以降の年次有給休暇をあきらめる必要があります。
従業員に年次有給休暇を取得させることによる会社側のメリット

働き方改革の一環である労働基準法の改正をはじめとした社会の風潮により、従業員に対して年次有給休暇を積極的に取得させる会社が増えてきています。賃金が発生する年次有給休暇は、一見、会社にとってデメリットのように感じられますが、下記のようなメリットがあるといわれています。
- 従業員の疲労回復やリフレッシュになり、労働意欲が上がり、会社の業績アップにつながることが期待できる
- 年次有給休暇が取得しやすい環境により、多様な働き方へのニーズを満たし、離職防止につなげられる可能性がある
- 人材採用の際に年次有給休暇の取得率の高さをアピールできるため、優秀な人材の雇用につながる
従業員の年次有給休暇の取得率を上げるための方法
従業員に年次有給休暇を取得してもらうためには、会社側が取得しやすい環境をつくることが大切です。ここでは、従業員の年次有給休暇取得率を上げるために、会社ができる取り組みや方法について紹介します。
年次有給休暇を取得しやすい制度をつくる
従業員が年次有給休暇を取得しやすい環境を整えるためには、
- 発生日に年次有給休暇取得計画書を作成し、休暇取得予定を共有する
- 会社全体または、部署内で年次有給休暇を順番に消化できる制度をつくる
- 計画年休を活用する
などの方法があります。
取得率が上がらない一因に、「今まで年次有給休暇を使用することがなかったので、休む理由やタイミングがわからない」「体調不良等以外の取得理由を申請しにくい」「みんなが働いているときに年次有給休暇を取得するのは申し訳ない」という心理が働くためだといわれています。
事前に予定する・交代で取得することで公平に有給休暇を取得でき罪悪感が発生しづらい・みんなが休むので堂々と休めるなど、心理的ハードルを下げることができます。
半日や時間単位でも取れるようにする
半日や時間単位の休暇の取得ができる環境を整えることも大切です。従業員によっては、通院や子供の送り迎えなど、数時間または半日程度の休暇が欲しいというケースもあるので、年次有給休暇の取得率を上げる方法としては有効と考えられます。
だたし年間5日の取得義務について、半日休暇はカウントされますが、時間単位の休暇については5日の範囲に含まれません。これは制度の趣旨である「心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するため」という目的を満たさないからです。そのため年間5日の取得義務ができていない従業員がいる会社は、時間単位の休暇導入は見送った方がいい場合もあります。
管理者から年次有給休暇を取得するように促す
どのような取り組みをおこなっても、会社が職場に周知し、従業員に利用してもらえなくては意味がありません。そのため、管理者が率先して年次有給休暇を取得し、他の従業員の見本になるようにしたり、誰が休んでも業務に支障がないような対策に取り組んだり、部下に対して積極的に有給休暇を取得するように促すことが大切です。
会社全体で年次有給休暇を取得しやすい環境を整えましょう
年次有給休暇は、労働基準法第39条で認められた労働者の権利です。会社は条件を満たした従業員に対して有給休暇を与え、利用させる義務があります。
うっかり忘れていた、本人が休みたがらない等の言い訳では許されない時代に変わってきたということでもあります。法律で定められているからという理由だけではなく、会社にとってのメリットもありますので、会社にあった制度を導入しておきましょう

江黒 照美 -えぐろ てるみ-
特定社会保険労務士。 強みを持たせるために得意分野を磨く士業が多い中、あえて真逆のジェネラリストを目指し、専門の労働問題を強化するだけではなく、開業後、年金事務所で年金相談の1000本ノックもこなす。 現在は採用から退職の先の年金まで、専門用語を使わず相談者に寄り添った言葉で説明し、顧問先から個人のお客様まで幅広い層に、高い評価を頂いている。