選考委員
榎並 悦子
写真家
選考委員
清水 哲朗
写真家
同じ場所、同じ被写体を撮影しても無意識のうちに十人十色の作品が生まれるのが写真です。それはなぜでしょうか。どのレンズを使うかによっても違いは表れますが、それ以上にここで撮ろうとレンズを向ける時に視点、角度、高さ、伝えたいもの、被写体との距離、構図、シャッタータイミングに自然と違いが表れるからです。特に被写体との距離は「撮影者の性格(積極的、消極的)」「興味のある・なし」「関係性(どれだけ知っているか)」によって違いが生まれます。被写体にグッと近づき、レンズを向ける小学生。照れか遠慮か相手の視線が気になるのか、被写体との距離感に個人差が出る中学生。撮影・表現技術が段違いに向上し、保護者よりも他人に対する興味が上回る高校生。世代ごとの視点、距離、被写体との接し方の違いを読み取るだけでもこのコンテストを見る面白さがあります。
また「撮る・撮られる」の関係から被写体がどれだけ心を開いてくれたのか、どれだけの会話があったのか添えられたコメントと写真からやりとりを想像しながら審査をしました。年下の皆さんから声をかけられたはたらくひとたちは、レンズを向けられる喜びや仕事への誇りが伝わるだけでなく輝いていてカッコ良かったです。それを写真で表現した小中高生の皆さんの仕事ぶり、見事でした。
カメラを向けたみなさんは、目の前のこの一瞬を残しておきたいと心が動き、シャッターを切ったのでしょう。
当然その場面を知る由もない私ですが、写真から人の会話が聞こえました!楽しそうな顔、真剣な顔、はたらく姿を見せてくれたその人の声が想像できたのです。そして、実は写真を撮っているみなさんの心の声も、作品から聞こえてくるように感じました。あこがれや感謝、感嘆や驚きの声までもが見ている私にも伝わってきました。
加えて作品のコメントをよく読ませていただくと、より被写体の声や音がはっきりと私の頭の中に響きました。私が絵本の文章作家だからでしょうか…… 作品を拝見していると、“おはなし”が生まれるように感じました。一作品一作品にストーリーが確実に存在していますね。
作品は一瞬の場面を切り取った“記録”かもしれませんが、撮った時の気持ちや「誰を撮ろう」「あの場面を撮ろう」と準備をしたことや応募作品を選んでコメントを考えたことも、みなさんの大切な思い出になったことと思います。
すばらしい作品を、ありがとうございました。
今年も作品を通して、たくさんの「働く姿」に出会うことができました。審査会場では、一堂に並べられた作品を前にして、審査する先生方と「どんな場所で働いているのでしょうか」「とっても素敵な表情をされていますね」などと話しながら、写真の裏側の想像をふくらませていきます。写真から飛び出て、今にも動き出しそうな働く姿に圧倒されます。
みなさんが大きくなって仕事に就くころには、自動化などが進み、もしかすると今回、撮影された仕事が見られなくなっているかもしれません。一枚一枚の作品が、今の日本の社会をうつし出す貴重な資料になるように思います。
朝日小学生新聞、朝日中高生新聞でも、いろいろお仕事を紹介するコーナーがあります。そこで大切にしていることは「なぜ、その仕事をしているか」「どんな思いで仕事をしているか」ということです。
単純に職業を取り上げるのではなく、このコンテストと同様に「働く人」にスポットを当てています。私たちもみなさんといっしょに、紙面を通して「働く」ということを考えていきたいです。
今年もたくさんの「はたらくすがた」が集まりました。みなさんが出会った“働いている姿”を写真に撮っていただきありがとうございます。作品を拝見していると、みなさんの周りには本当にいろいろな職業の方がいて、そういう方たちにしっかりとカメラを向けているところが素晴らしいと思いました。被写体となった方々も、仕事中にもかかわらず撮影に協力的なのは、みなさんの撮りたい、という気持ちが伝わったからでしょう。
家族の職場を訪ねてみると普段の“顔”とはちょっと違った様子に驚き、そして多少照れながらも尊敬の眼差しでとらえていることが感じられました。そして働く姿は素敵でカッコイイ!そんな気持ちに満ちていました。ご自身の義足を作ってもらっている技師の方をとらえた作品も強く心に残った一枚です。これまでのおふたりの会話や時間が感じられて物語がたくさん詰まっていると思いました。
惜しくも選外となった作品も、一枚一枚、楽しく拝見しました。カメラを構えて向き合うのは、ちょっと照れくさかったり、遠慮したりすることも多いと思いますが、これからも魅力を感じた働く姿をたくさん写して下さいね。楽しみにしています!