選考委員長
田沼 武能
写真家
アイデム写真コンテストは16回目ですが、私は選考委員として初めての参加となります。絵本作家と病棟保育士(入院している子と一緒に過ごす保育士)、それから“お母さん”をしている私が、写真の良しあしなんてわかるかしら…と少し心配していました。
しかし、そんな気持ちは、みなさんの写真を拝見するとすぐに吹き飛びました。自分の周りにいる「働く人」の生き生きとした場面をとらえるべく、一生懸命レンズを向けたみなさんの姿が写真から伝わってきたからです。
いつも当たり前のように自分の近くにいる家族の日常に、頑張っているなと気づき、ありがとうと想っているみなさんの視点に、感心させられました。
また、身近にいなくとも”仕事“に焦点を当てて、「あの仕事を見てみよう」「あの人に会いに行こう」と働く姿を見に行ったことは、みなさんの経験を広げたと思います。その時の発見や驚きが、多くの作品から感じられました。コンテストを通して得た、働く人への感謝やあこがれの気持ちは、これからのみなさんの心を豊かにしてくれるものだと信じています。
写真は撮る人の気持ちが表れることが、よくわかりました。教えてくださったみなさんに、私も感謝いたします。とてもすばらしく、またクスっと笑えるようなかわいい作品を見せてくださって、ありがとう。
新型コロナの影響で、働く環境や仕事の向きあい方に変化がありました。小学・中学・高校生のみなさんが、その変化をどのようにとらえられたのか、とても気になりました。
自宅でパソコンに向かう姿、魚をさばく姿、道路の整備をする姿、病院で子どもたちと向き合う姿……。1枚1枚の写真からは、厳しい環境の中で、社会を支えていこうとする姿が浮かび上がってきました。みなさんも働く方の話に耳を傾け、写真に収める中で、仕事に対する見方がより深まったのではないでしょうか。
これからも、いろいろな場所で働く方に目を向けてみてください。みなさんが大きくなって仕事に就くころには、もしかすると今回、撮影された職業が見られなくなっているかもしれません。1枚1枚の作品が、2021年の日本の社会をうつし出す貴重な資料になるように思います。
本年も全国各地から様々な働く姿が届きました。マスク姿で働く大人たちの写真は、まさに時代を写していると言えます。家で働く親や、医療従事者の写真も多く寄せられました。夏休みの頃は撮影が難しい状況でしたが、身近で働く人々をみなさんが工夫しながら撮影してくれたことが伝わってきました。
小学生の部グランプリの写真はいちご農家のご家族を撮影した写真です。広がる青い空、いちごの苗と思われるものを手に、撮影者である小学1年生のお子さんに笑顔を向けるその姿は、共に力を合わせて家業を営む明るい日本の家族そのものを写しだしています。
中学生の部グランプリはバイクの修理をする祖父の一枚。朝から夜まで一生懸命働いているという祖父の目線からは、バイクの修理を楽しんでいることも伝わってきます。
高校生の部グランプリは工事現場での写真です。沢山の人たちが協力しながら働いている様子を迫力ある構図で写し撮っており、高校生ならではの感性が活かされた作品です。
いつの時代も、どんな仕事も働くことの大切さは変わりません。子どもたちの目線で捉えた写真からは、マスクの下の真剣な表情や素晴らしい笑顔を読みとることができます。いつか働くことになる子どもたちにとっては、撮影を通じて仕事への憧れやその姿に尊敬の念をもつきっかけになったのではないでしょうか。