OJTは多くの会社が採用する、社員の教育法のひとつです。先輩社員から直接実務を学べるため、終了後は即戦力として活躍することが期待できます。
この記事では、OJTの基礎知識やOFFJTとの違いのほか、OJTのメリットやデメリット、導入までの流れなどをわかりやすく紹介します。
OJTとは教育訓練の1つ
OJTとは「On the Job Training」の略で、勤務する職場で実務を通じておこなわれる人材育成法のことです。
そもそもOJTはアメリカ発の人材育成法で、元は第一次世界大戦時に軍隊を育成するために考え出されたといわれています。日本では高度成長期に導入され、1970年代ごろから社員研修の基本として広く普及しました。
OJTは多くの場合、通常の業務と並行しておこなわれます。上司や先輩社員からの実践的な仕事のノウハウを体感できるOJTは、即戦力の育成に最適です。OJTは時代とともに変化しながら、現在も多くの会社で採用されています。
職場外でおこなわれる教育研修はOFFJTという
実際の職場でおこなわれるOJTに対し、職場外でおこなわれる教育研修をOFFJTといいます。OFFJTとは「OFF the Job Training」の略で、OJTとは対照的に、研修のために特別な場所や時間が設けられることが一般的です。
OFFJTでは、ビジネスマナーや業界の基礎知識、仕事に必要なスキルや理論などを、座学によって習得します。
OJTとOFFJTの違い
OJTとOFFJTの大きな違いは、先述のとおり、職場から離れるかどうかにあります。
OFFJTは、ビジネスマナーや業界の基礎など社会人としての「あり方」を身につけるのが主な目的です。職場から離れた場所で、外部の専任講師により体系的な学習をおこなうため、社員は効率よく知識を吸収できます。
一方のOJTは、実際の業務にあたりながら仕事の本質について身をもって学べます。
即戦力となる社員の教育に適したOJTを重視し、OFFJTを必要としない考え方もあります。実際、受け身になりがちなOFFJTは、効果の見えにくい教育法であることも事実です。
しかし、OJTで学んだ実務をアウトプットするには、社会人として核となる知識や理論をインプットしておくことが欠かせません。
実務に即したスキルの指導にはOJT、通常の業務からは得にくいスキルの習得にはOFFJTと、それぞれの性質に合わせて、両者を適切に取り入れることが大切です。OFFJTで学んだ知識や理論をOJTで実践できれば理解が深まるでしょう。
OJTのメリットとデメリット
さまざまなメリットのあるOJTは、日本の会社に幅広く導入されています。しかし、実際にOJTを導入してみると、思わぬ課題にぶつかることもあるようです。
そこで、OJTのメリットとデメリットをわかりやすく紹介します。
メリット1:個人に合わせてトレーニングできる
OJTでは、上司や先輩社員がトレーナーとなり、新入社員をマンツーマンで指導するのが主流です。そのため、個人の能力や理解度に応じて教育内容やスピードを変化させるなど、臨機応変にトレーニングを進めることができます。
また、理解しやすいトレーニング方法を試行錯誤する機会が多いため、トレーナーの指導力アップにつながることも魅力です。トレーニーにとっても、わからないことや疑問点をすぐに解決できるので、効率よくトレーニングできます。
メリット2:実務を通じておこなうので即戦力を育てられる
座学による集団研修とは違い、実際の業務を通じて教育訓練をおこなうのがOJTです。指導内容が実務のため、座学では習得できないスキルを身につけることが期待されます。
さらに、実際に業務にたずさわる社員が直接指導するため、トレーニングに対する理解度が高いこともOJTの強みです。
近年はIT技術の進歩などによって、会社を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。実務に即したOJTなら、多様な変化に対応する応用力や柔軟性も養われるでしょう。
メリット3:トレーニングを通じて職場の人間関係に広がりができる
教える側であるトレーナーと教わる側であるトレーニーが、これから同じ部署で働く社員同士であることも、OJTのメリットにつながっています。
トレーナーの業務の進捗を上司や周囲の社員が確認するなど、実務をこなしながらトレーニングも円滑に進めるためには、社員同士の綿密なコミュニケーションが欠かせません。
OJTを介したコミュニケーションが積み重なるうちに、職場内の人間関係が広がっていくでしょう。
メリット4:低コストで実践的な研修ができる
コストを抑えたトレーニングが可能なことも、OJTのメリットのひとつです。
専門の講師を招いたり、特別な場所を設けたりするOFFJTでは相応の費用が発生します。さらに、研修先への移動が必要になると交通費などのコストが発生する可能性もあります。
しかし、OJTは実務のなかで社員がトレーニングをおこなうため、特別なコストがかかりません。
デメリット1:トレーナーの業務量が増える
OJTを担当するトレーナーは、トレーニーへの指導と同時に、自身が担当する業務もこなさなければなりません。時間の制約や精神的な負担が大きくなり、業務量も増えます。
トレーナーの許容量を超えてしまうと、業務が滞るうえ、OJTを進めることも困難になります。
トレーナーがOJTと日常業務を両立させるには、会社の積極的なサポートが重要です。定期的なヒアリングによって状況を判断し、トレーナーの負担を軽減するよう、適切に対処しましょう。
デメリット2:仕事の全体像をつかみにくい
目の前の実務をこなしながら、仕事のスキルを身につけていくOJTは、日々の業務にのみ集中してしまいがちです。そのため、実務は習熟しても仕事の全体像をつかみづらく、長期的な視野を持って仕事に臨む姿勢が身につきにくいといわれています。
長期的な視野を養うには、OJTだけに頼らず、OFFJTを組み合わせた教育プログラムの確立が必要です。
デメリット3:OJTの内容がトレーナーに左右される
トレーナーとなる上司や先輩社員とのマンツーマンでのやりとりが、OJTの基本スタイルです。
トレーナーに選出された社員が、必ずしも人を指導するスキルに長けているとは限りません。また、トレーナーとトレーニーの相性もトレーニングに影響を与えます。そのため、トレーナーのスキルや相性によってトレーニーの習熟度が変わるなど、OJTの成果に差が出ることが考えられます。
こうした事態を未然に防ぐには、指導法について研修をおこなうなど、トレーナーを選んだ会社側が責任をもってOJTをサポートすることが必要です。
OJTを導入する流れや必要な期間
OJTを導入するには、綿密な準備と具体的な計画の立案が欠かせません。そこで、OJTを導入する流れや必要とされる期間について解説します。
OJT導入の流れ
効果的にOJTを進めるためには、基本的な流れにそって導入しましょう。
【1.OJTの目標を設定する】
最初にOJTの目標を設定します。OJTを通じてどのような社員を育成するのかを明確にし、会社としてはもちろん、部門や部署ごとに理想とする人物像を設けます。
目標設定は、OJTの開始直後や途中経過、終了後など、細かなポイントで設定するほど達成しやすくなります。また、個人の技量やそのときの職場の状況などに合わせた柔軟性もあればさらによいでしょう。
【2.OJTの計画を立案する】
OJTの目標が定まったら、実施にあたっての計画を立案します。どれくらいの期間やペースで進めれば目標達成(新入社員が成長)できるのかを、具体的に決めていきましょう。
計画を立てるときには、合わせてOJTの工程表を作成しておくのがおすすめです。OJTの進捗を共有しやすくなるとともに、最終的な目標達成の確認にも役立ちます。
【3.トレーナーを選定して教育目標を確認する】
具体的な計画を作成したら、計画を実行するためトレーナーの選定に移ります。
トレーナーには、実務を理解した入社後3~5年程度の社員が適しています。人事部などOJTを担当する部署とトレーナーの所属部署で話し合い、トレーナーとしての資質について議論することが大切です。候補者と面談するなど、選ばれた社員への配慮も忘れないでください。
トレーナーが決まったら、OJT担当者や部門長などとともに、OJTの目標や計画、工程などについて、トレーナーと認識をすり合わせます。この時点で、トレーナーにOJTの内容を正しく理解してもらうことが重要です。
OJTの準備が整ったら新入社員のトレーニーを配属し、OJTを実施します。
【4.中間報告】
OJT実施中には中間報告の機会を設けて、報告内容に応じて計画を修正しましょう。
所属部署の部門長、トレーナー、トレーニーで中間報告をおこないます。それぞれの立場から、研修の進捗状況などを丁寧にヒアリングし、関係者で共有してください。
面談の結果、どのような計画修正や改善がおこなわれたかを共有することも大切です。この中間報告を経れば、新たな気持ちでOJTを進めることができます。
【5.達成度の確認】
最後に計画時に作成した工程表などを元に、目標に対する達成度を測りましょう。さらに関係者へのヒアリングやアンケートを実施すると、満足度など目に見えにくい部分も評価しやすくなります。
達成度は関係部門にフィードバックします。所属部署ごとに求める人材は少しずつ異なります。このフィードバックを通じて、より現場に即した研修内容となるよう、今後のOJTの改善に役立てましょう。
また、OJTの導入によって、本来の業務に影響があったかについても見直してください。トレーナーに負担のない計画や工程表の作成につながります。
OJTの期間は1年程度が目安
OJTの期間に決まりはありません。しかし、新卒社員の育成としてOJTを実施する場合、4月の入社期から翌年の3月まで、約1年にわたっておこなわれることが多いようです。業種や職種によっては、9月までの5ヶ月間とするところもあります。
かつては、即戦力をスピーディに育成する必要があったため、OJTは3ヶ月程度と短く終了するのが主流でした。しかし、現在では正社員の採用人数が少ないため、時間をかけて、よりよい人材を育成することが重視されるようになりました。
仕事に必要なスキルを学ぶだけではなく、実践力として身につけるためには、最低でも3ヶ月はかかるといわれています。多忙な職場事情があったとしても、OJTには最低でも3ヶ月以上の期間を設定しましょう。
OJTを成功させるためのポイント
OJTを成功させるには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。ここでは、OJTを成功に導くポイントを5つに絞って解説します。
OJTでの失敗例である「放置」を避ける
OJTを導入したのに、トレーナーからの指導はほとんどなく、トレーニーが放置されてしまうケースがみられます。OJTは人材の育成を目的におこなうため、トレーニーを放置してしまっては、OJTを実施する意味がなくなってしまいます。
OJTでの失敗例である放置を避けるには、研修をトレーナーだけに任せず、関係部署が連携し合い、以下のように適切なフォローをおこなうことが重要です。
【トレーナーの業務量を調整する】
OJTの目標や計画をどれだけ理解していたとしても、指導する時間が取れないほど多忙なトレーナーが部下を指導することはできないでしょう。
OJTを実施するときには、通常の業務と並行しておこなわれることを考慮して、トレーナーの業務量を調整することが求められます。トレーナーからのヒアリングを適宜おこない、関係部署や部門長などとともに、OJTの現状の把握と業務量の調整をしましょう。
【現場でOJTの仕組みを共有する】
研修場所が現場(職場)となるOJTでは、トレーナーはもちろん、職場で働く社員にもOJTの仕組みを理解してもらうことが大切です。周囲の理解がなければ、トレーナーの業務量を調整することも難しくなります。
トレーナーを選定した時点で、OJTの目標や計画、具体的な指導内容のわかる工程表を示して、職場全体でOJTの仕組みを共有しましょう。毎年のようにOJTが実施されるなら、マニュアルを作成しておくのもおすすめです。
【トレーナーの変更や追加を検討する】
OJTはマンツーマンの指導が基本です。そのため、OJTの達成度が、トレーナーの資質に左右されることが珍しくありません。指導力が足りなかったり業務と並行するのが困難だったりと、トレーナーの能力不足から放置が起こることも考えられます。
トレーナーには向き・不向きがあります。トレーナーの資質に疑問を感じたら、すぐにトレーナー変更を検討してください。
高度なスキルを指導するときにはベテラン社員、コミュニケーションを重視するならトレーニーと年齢の近い社員のように、研修内容ごとに異なるトレーナーを追加するのもおすすめです。
【トレーナーの指導力アップを図る(チェックシートで確認する)】
トレーナーの指導力を上げることも、放置の解消につながります。トレーナーの指導力アップに役立つのが、PDCAという考え方です。
PDCAとは、「Plan(計画)」、「Do(実施)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」からなるサイクルで、OJTでは計画立案、指導、定期的なフィードバック、そして習得した知識や技術を確実にものにするための実践に置き換えられます。
とくに重要なのが「Check(評価)」にあたる、定期的なフィードバックです。振り返るツールとしてチェックシートを用いれば、トレーナーの指導力を引き上げると同時に、トレーナー間の指導力のバラつきをコントロールしやすくなるでしょう。
OJTを体系化させる
OJTの指導内容やスケジュールが漠然としており、実質トレーナー任せとなっている職場では、放置が発生しやすいといわれます。
この場合、計画する段階で、目標の設定やフィードバックのタイミングなど、できるだけ細かな内容を設定してOJTを体系化することが必要です。内容が細かいほど、OJTの実情と計画とのズレを早期にみつけやすいでしょう。
少しでも計画とのズレが見えたら、関係者が原因や対応策を考える機会を持つことも大切です。
目標設定を明確にする
目標を明確にしておくと、OJTに対する理解が深まります。目標が具体的であればあるほど、どんなスキルが必要か、どれくらいの期間がかかるかなどの課題が見えやすくなります。
また、OJTの目標は、トレーニーとも必ず共有してください。明確なゴールはトレーニーのモチベーションアップに役立ちます。
目標達成までOJTを継続する意識を持つ
トレーナーのなかには、OJT期間内に目標を達成するのが難しいと考えて、指導を諦めることもあるかもしれません。しかし、会社に必要な人材を育てるというOJTの目標を考えれば、期間にかかわらず、目標達成まで積極的な指導を続ける意識が大切です。
【OJD(On the Job Development)を取り入れる方法もある】
トレーナーの指導力アップには、OJDを通じて、マネジメント能力を磨くのも方法のひとつでしょう。
OJDとは「On the Job Development」の略で、職場の上司からサポートを受けながら、実際の業務を通じて社内でのキャリアアップに必要なスキルを身につける方法です。一般的に、業務に関する知識や経験に加え、チームへのマネジメント能力などを習得します。
ただし、社内でのキャリア形成を目的とするOJDは、長い時間をかけてスキルを習得するのが原則です。OJTのスケジュールを考慮しながら、計画的に導入するように注意してください。
トレーナーに必要なスキルやテクニックを身につけさせる
トレーナーとして必須とされるスキルやテクニックを身につけさせることも、トレーナーの指導力アップにつながります。
【ティーチング】
指導の基本となるのがティーチングです。まず、トレーナーが指導内容の目的を伝えて実践し、トレーニーにも実践させます。その後、改善点などをフィードバックすることで、内容への理解を深めます。
【コーチング】
指導が進んできたタイミングで取り入れたいのがコーチングです。
トレーニーが自分自身で考える姿勢をサポートし、応用力を養います。一から十までを教えるティーチングに対し、コーチングではすべてを教えずに、対話のなかからトレーニーが自分で答えを考え出すように誘導します。
ティーチングで必要な知識を習得させて、コーチングで柔軟性を身につけさせるといったように、どちらかに偏ることなく、バランスのよい指導をおこなうように心がけましょう。
【 オープン・クエスチョン】
指導に対するトレーニーの理解度を測るのにおすすめなのが、オープン・クエスチョンです。「はい」か「いいえ」の二者一択の質問は避け、自由に発言させることでトレーニーが指導内容をどのくらい理解できているのかを確認します。
OJTはしっかりと準備したうえでおこなおう
職場での実務を通じて必要なスキルを学べるOJTは、即戦力を育てるのに適しています。ただし、具体的な計画や目標、定期的なフィードバックのないOJTは、トレーニーの放置という失敗につながることもあります。
OJTの導入には、事前の準備が大切です。OFFJTとも組み合わせる、トレーナーに対するサポート体制を整えるなどして、会社が求める人材の育成を目指しましょう。