コーチングとは、対話により相手の内面にある考えや視点を引き出し、成長や目標達成をサポートする手法のことです。コーチングをおこなうことで、能動的に行動し、高いパフォーマンスを発揮できる人材を育てることができます。
この記事では、コーチングのメリット・デメリット、効果的な手法について詳しく解説していきます。
コーチングとは?
コーチングとは、相手に物事を教えたりアドバイスしたりするのではなく、問いかけや対話を通して相手の内面にある考えや視点を引き出す手法です。
「教える」ことは一方向のコミュニケーションになりがちですが、コーチングでは「問いかけや対話」など、双方向のコミュニケーションをおこないます。様々な質問を相手に投げかけることで、視点や考え方・行動の選択肢を増やしたり、目標達成に必要な行動を促したりすることができます。
コーチングは能動的な思考や行動を引き出す手法のため、部下の主体性を引き出したい場合などに適しています。
コーチングを受けた相手は「自分が主体性を持って働いている」という納得感や満足感を得ることができるため、モチベーションを高く保ったまま、目標達成のために力を最大限発揮できるようになるでしょう。
ティーチングとの違いは?
ティーチングとは優れた知識や経験を持つ人が、相手に考え方やスキル・戦略などを教えることをいいます。直接教えて導く方法のため、短期間で大勢の人を効率的に教育することが可能です。
たとえば、方法論が確立しているスキルやマナー、機器の使い方などを教えるときにはティーチングが適しています。コーチングは対話により相手の内面にある答えを引き出す反面、ティーチングでは教える側が「答え」を持っているという特徴があります。
ティーチングでは教える側の情報発信が多く、一方向のコミュニケーションになる場合が多くなります。そのため、教えられる側が受動的になりやすく、モチベーションが下がることもあるので注意が必要です。
反対に、コーチングは、やり方が明確になっていない仕事や業務改善、目標を設定するような場面に適しています。場面に応じてコーチングとティーチングを使いわけると効果的です。
コーチングの3つのメリット
コーチングを人材育成に取り入れることで、相手の成長をサポートし、内なる能力を引き出せるようになります。それでは続いてコーチングの3つのメリットを詳しくみていきましょう。
自ら考え行動する力を身に付けさせることができる
コーチングは対話を通して相手に考えることを促すため、相手は自然と「自分は何を考えているのか」「どのように成長していきたいのか」「目標達成のために何をすべきか」ということに気づくことができます。
そして、「成長や目標達成のために何をすればよいのか」というところまでを自分の力で考えられるようになり、実際に行動に移そうとするようになります。
モチベーションを維持させられる
コーチングを受けた相手には「自分で考え、選択した」という自覚が生まれるため、自然と主体性が高まり、モチベーションを高く維持できる傾向にあります。
最終的な答えが同じ場合であっても「誰かから教えられた答え」なのか、「自分で見つけ出した答え」なのかによって、本人の熱意ややる気、動機付けは大きく変わります。
新たな可能性を見出せる
ひとりで考えていると視野が狭くなる、既存の価値観に縛られてしまうなど、新しい考えが浮かばないこともありますが、コーチングでは本人も気づいていなかった内面の能力や、新たな可能性を見出せるというメリットがあります。
対話を通して自分にはなかったものの見方や発想などを発見することができるため、ものごとを柔軟に、多面的に考えられるようになります。
コーチングの3つのデメリット
コーチングは効果的な人材育成の手法ですが、デメリットもあります。コーチングの導入を検討する場合は、「コーチングの手法が適しているかどうか」をしっかり考慮することが大切です。
それでは、コーチングの3つのデメリットについて詳しくみていきましょう。
効果が出るまで時間がかかる
コーチングは、問いかけや質問などを通して双方向のコミュニケーションをおこない、相手の「気づき」や「発見」を重視しながら進めていく手法です。そのため、スキルや能力を教えるティーチングに比べて、人材育成に時間がかかる場合があります。
短期間で教育しなければならない場合にコーチングは適さないため、状況によってティーチングと使い分けるようにしましょう。
大勢を同時に教育できない
コーチングは1対1の対話で進めていく手法のため、大勢を一度に教育することができず、非効率な面があります。
たとえば、同じ方法、同じやり方・手順、あるいはマニュアルの内容を一度に多くの人に教える場合には、ティーチングのほうが適しています。
知識やスキルが必要
コーチングをおこなう際には、相手にもある程度の能力やスキルが備わっていた方がよいでしょう。
まったく知識や経験がない人に問いかけをおこなっても、能力や気づき、アイデアを十分に引き出すことができません。
コーチングのアプローチについて解説
コーチングのアプローチ方法には、行動レベルのコーチングと、メンタルレベルのコーチングの2種類があります。
行動レベルのコーチング
行動レベルのコーチングとは、高い成果や目標達成のために行動を変えさせたり、能力を高めたり、スキルを身に付けさせることを目的としたものです。
事前に現状の把握と課題の発見、ゴールの設定をおこない、次にスキルの習得や能力の向上など、目標のためにどのように行動を変えていくかを考えさせます。そして、実際に行動させることでより高いパフォーマンスに結び付ていきます。
行動レベルのコーチングの成功例として、コーチングを受けた側が「30分早く出社する」、「新たな資格の勉強を始める」、「新規事業のプランを作成し発表する」などの行動を起こすことが挙げられます。
行動レベルのコーチングは、マネージャーやビジネスパーソンが成果を出したり、個人が成長することで組織やチームを発展させたりする際に効果を発揮します。
しかし、結果を出すために行動を変えようとした人に、メンタル面の課題が生まれてくる場合があります。その課題に対応するコーチングが「メンタルレベルのコーチング」です。
メンタルレベルのコーチング
メンタルレベルのコーチングは、目標達成のための行動を妨げるような「メンタル面の課題」にアプローチするコーチングです。行動レベルのコーチングを実践しようとするときに現れる不安などを克服させることを目的としています。
目標達成のために行動を変えさせようとしても、メンタル面での不安や引っかかりがあるとパフォーマンスを最大限に発揮することができません。目標達成のためには、行動面とメンタル面のバランスがとれていることが重要です。
メンタルレベルのコーチングでは、心を整えて自己肯定感を持たせ、よいイメージを持って行動できるように導いていきます。
メンタルレベルのコーチングがうまくいくと、コーチングを受けた人が「積極的に発言するようになった」、「仕事に対する態度が変わった」、「クライアントとのやり取りがスムーズになった」などの良い変化が起きることが期待されます。
コーチングのトレーナーに求められる3つのスキル
コーチングを効果的におこなうためには、相手の能力をうまく引き出すスキルが必要です。それでは、コーチングをおこなう側=トレーナーに求められる3つのスキルを詳しくみていきましょう。
傾聴力
傾聴力とは、ただ耳で聞くだけではなく、目や心も使って真摯な姿勢で相手の話を聞くことをいいます。相手の意見を受け入れ、発言内容に共感することで、相手を深く理解します。
傾聴力があると、相手の話や考え方を受け入れて理解し、表情や仕草などにも気を配って話を聞くことができます。そのため、コーチングを受ける相手は心を開き、トレーナーとの信頼関係を構築しやすくなります。
信頼関係がある人との対話によって、コーチングを受けた相手は内面にある考えや自身への理解を深めることができ、主体性を持った行動につなげることができるようになるでしょう。
質問力
コーチングは相手に様々な問いかけをおこないます。そのため、相手の「気づき」を促すような、効果的な質問をする力も重要です。
たとえば、相手が失敗したときに「どうしてそのような失敗をしたのか?」と問うのではなく、「失敗した原因は、なんだと思う?」というような聞き方をします。このような質問をされることで、相手はミスをした原因について精神的なゆとりをもって客観的に考えられるでしょう。
起こった事実に関して自分で分析できるように導く質問をすることは、コーチングにおいて重要です。
承認力
承認力とは、相手の行動や成長、変化などを認めて、言葉や態度で伝えるスキルのことをいいます。
承認された人には、褒められた行為を繰り返したくなるという心理が生まれます。「好ましい行動を承認し、しっかりと伝える」ことを繰り返すことで良い行動を定着させ、コーチングの効果につなげることができるでしょう。
コーチングの資格
コーチングの資格は主に3種類あり、すべてが民間資格です。
団体ごとに独自のコーチング資格を発行しているため、資格を取得したい場合は、どの団体の資格を取るべきか、資格の内容は自分に合っているか、などを慎重に検討して選ぶことが大切です。
日本コーチ連盟のコーチング資格
日本コーチ連盟は、コーチングの普及や発展を目的としている団体です。コーチング資格のだけではなく、コーチング技能養成校「コーチアカデミー」の運営や大学の公開講座、検定試験の実施など幅広い活動をおこなっています。
日本コーチ連盟が運営しているのは、コーチングのコーチとして活動するための資格「コーチ資格」と、コーチングの技能を教えるための資格「インストラクター資格」の2つです。コーチングをおこないたいのか、それともコーチングの技能を教えたいのかということを考えて取得する資格を選びましょう。
国際コーチ連盟のコーチング資格
国際コーチ連盟(ICF)は世界最大規模のコーチングの資格を発行している団体です。国際コーチ連盟が認定するコーチング資格は国際資格のため、日本だけではなく海外でも通用することが特徴です。
発行している資格は、経験を積んだコーチのための資格である「アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)」、国際的に認められる実績が豊富なコーチのための資格である「プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)」、国際的に認められた熟練のプロフェッショナルなコーチのための資格である「マスター認定コーチ(MCC)」の3つです。それぞれ100時間、500時間、2,500時間のコーチング実績が必要となっており、経験に基づいた、より実戦的な資格を取得することができます。
一般社団法人 生涯学習開発財団のコーチング資格
一般社団法人 生涯学習開発財団は、文部科学省所管の財団です。
認定している資格は初級者向けの「認定コーチ」、中級者向けの「認定プロフェッショナルコーチ」、上級者向けの「認定マスターコーチ」の3種類です。これらの資格にも受験条件があるので、事前に確認してから申し込むようにしましょう。
コーチングをビジネスに活用しよう
コーチングは知識やスキルを教えるのではなく、質問などの対話によって、相手の能力や気づきを引き出す人材育成手法です。
ティーチングに比べて時間はかかるものの、部下のモチベーションを向上させ、高いパフォーマンスを引き出すことが期待できます。
能動的に行動し、結果を出せる社員を育てるためにも、コーチングを人材育成に取り入れてみることをおすすめします。