イノベーションは日本語で「技術革新」などと訳されることが多く、ビジネスパーソンになじみ深い言葉です。しかし、言葉がひとり歩きしてしまい、本来の意味や定義を理解していないケースも珍しくありません。
この記事では、イノベーションの意味やビジネスにおける定義を詳しく解説します。
イノベーションとは
会社の成長や市場の活性化に欠かせないとされるイノベーションですが、具体的にはどのような意味なのでしょうか。
まずは、イノベーションが持つ本来の意味と、ビジネスワードとして用いられるようになった背景を説明します。
ビジネスに新しい価値を生み出す「革新」や「新機軸」のこと
イノベーションは日本でもよく知られるビジネスワードで、日本語では「技術革新」と訳されることが多いようです。
しかし実際には、イノベーションが示す「革新」は技術には限りません。ビジネスにおいて、今までになかった新しい仕組み、新しい技術を取り入れ、社会全体に大きな影響をもたらすことをイノベーションと呼びます。
イノベーションの提唱者はオーストリアの経済学者
イノベーションという概念の提唱者は、オーストリアの経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター(1883~1950年)です。著書『経済発展の理論』(1912年刊)において、シュンペーターは経済がイノベーションを軸に発展するものであると記しています。
シュンペーターによると、イノベーションとは「会社が成長するために新たなアイディアを導入する行為」であり、社会や経済の発展には、人口増加といった外的要因よりも、イノベーションのような内的要因が重要だと述べています。
イノベーションの定義
イノベーションの提唱者であるシュンペーターは、イノベーションには5つの理論があると定義しています。イノベーションを理解するために、シュンペーターが定義する理論を紹介します。
プロダクト・イノベーション
プロダクト・イノベーションとは、今までになかった新しい製品やサービスが誕生することを意味します。
新しい技術だけではなく、既存の技術とサービスとの組み合わせによっても、独創的なイノベーションを生み出す可能性があります。
たとえば、古くは電気や自動車、近年ではパソコンやスマートフォンといったプロダクトの登場があげられます。
プロセス・イノベーション
プロセス・イノベーションとは、製品の作り方、作業の順番、工程といったプロセスを革新的な仕組みに改善することです。これにより、仕入れる素材や部品などの原価を下げることや、大量に製品を生産することが可能になります。
プロセス・イノベーションは製品やサービスの効率的な提供につながるため、会社の業績アップに直結しやすいと考えられています。
具体例としてベルトコンベアの導入があげられます。製品の移動を機械に任せることにより、大量生産、人件費のコスト削減が実現できます。
マーケット・イノベーション
マーケット・イノベーションとは、新しい市場に参入して、これまで対象ではなかった販路や消費者を掘り起こすことです。
自社の製品やサービスについて本来とは異なる新しい魅力を見出し、未知の市場へアピールします。得意分野を活かして新たな顧客を獲得するマーケット・イノベーションは、会社の規模によらず実現可能なイノベーションであるといえるでしょう。
ゲーム業界でいえば、従来ゲームをするためには、専用のゲーム機器を購入する必要がありました。しかし、スマホの登場によりスマホでゲームが可能に。今まで、ゲーム機ではゲームをしなかったライトユーザーがスマホでゲームをするようになり、ユーザーが急激に増加しました。
サプライチェーン・イノベーション
プロダクトの生産に必要となる材料や、そのような材料の供給源を新たに開拓することを、サプライチェーン・イノベーションといいます。
会社の強みとなるプロダクトでも、材料の供給が不安定だったりコストがかかりすぎたりといった理由で、安定した生産が叶わないことがあります。しかし、別の原材料への切り替えや配送の効率化などによって、会社は新たな事業を積極的に進められるようになるのです。
配送の効率化という点では、生産工場が運送業者と協力して、荷物のパレットキャリー(荷台)を見直すことによって、積替えや荷降ろし作業の削減に成功した事例があります。より短い時間で、材料をメーカーに提供することが可能になりました。
オーガニゼーション・イノベーション
オーガニゼーション・イノベーションとは、会社の組織やシステムを再構築し、その会社、ひいては業界全体に影響を与えることです。
日本ではトップダウン型のビジネスモデルが一般的ですが、変化の激しい現代では限界があるという指摘もあります。オーガニゼーション・イノベーションによって、ボトムアップ型や上下関係のないホラクラシー型といった組織へ変革すれば、生産性の向上や人材不足の改善をはじめとする大きな成果が期待できます。
破壊的イノベーションと持続的イノベーション
イノベーションは、シュンペーターが提唱した5つの理論とは別の視点で表現されることもあります。
ハーバード・ビジネススクールの教授であったクレイトン・クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』(1997年刊)においては、破壊的イノベーションと持続的イノベーションが提唱されています。
イノベーションのジレンマとは
クリステンセンの著書のタイトルにもなっている「イノベーションのジレンマ」とは、既存の大手企業がイノベーションを起こせず、ベンチャー企業に遅れをとることをいいます。
大手企業は自社の製品やサービスによって、すでに一定数の顧客を獲得していることがほとんどです。
そのため、既存の市場規模に満足してしまい、新しい市場に魅力を感じにくくなる、または既存のプロダクトに固執するあまり、新規開発が後手に回りやすいといった要因から、ジレンマに陥りやすいとされています。
革新的な「破壊的イノベーション」
破壊的イノベーションとは、それまで当たり前とされてきたルールを破壊して、業界の構造に革新をもたらすイノベーションモデルのことです。
この概念には主に2つのタイプが想定されます。消費者にこれまでにない価値を提案して市場そのものを新たに生み出す「新市場型破壊」と、既に市場を占める大手企業に対抗しながら消費者に低コストの製品やサービスを提案する「ローエンド型破壊」です。
「新市場型破壊」の事例として、デジタルカメラがあげられます。もともと写真はフィルムを現像して作られていましたが、デジタルカメラの登場により市場は一変。写真は現像する必要がなくなり、データ化されることでパソコンでも見ることが可能になりました。
また、「ローエンド型破壊」の事例として、あるアパレル企業の戦略が考えられます。当時、デザイン性などを競い合っていた市場において、あえてシンプルな服を安価で販売することで顧客の支持を得ました。今では日本にとどまらず、世界中で店舗を展開するようになりました。
前者は今までになかった新しい商品を求めている顧客層から、後者はコストパフォーマンスを重視したい顧客層から支持を集めます。
大手企業に多い「持続的イノベーション」
持続的イノベーションとは、先ほどの破壊的イノベーションの対義語として使われるものです。
既存の顧客ニーズに合わせ、今ある会社の製品やサービスを向上させるために実践されるイノベーションを指します。ネットを活用したサービスの拡充、製品のモデルチェンジによる高性能化などの手法で、大手企業を中心に実践される傾向があります。
実践する企業が少ないうちは、高い効果をもたらしますが、現在は多くの企業が取り組み、消費者から見て目新しさがなくなったことから、大きな影響を与えることが難しくなりつつあるようです。そのため近年は、持続的イノベーションが多くの会社のビジネスモデルとして採用されています。
イノベーションに関連する用語
最後に、イノベーションの持つ意味やビジネスにおける概念への理解をさらに深めるために、関連するビジネス用語を紹介します。
オープンイノベーション
ハーバード大学経営大学院のヘンリー・チェスブロウが提唱しているのが、オープンイノベーションです。自社のみならず、業種や業界を問わず多方面と連携し、様々なアイディアやサービスから新たなビジネスモデルを創造することを意味します。
オープンイノベーションでは、共同開発や共同研究によって個々の強みが活かされ、固定概念にとらわれない革新的な製品やサービスを生み出す可能性があります。
クローズドイノベーション
クローズドイノベーションとは、同じくチェスブロウが提唱した概念であり、オープンイノベーションとは逆に、自社で研究から開発までのすべてをおこない新たな製品やサービスを生み出すことを指します。研究から開発までを自社で完結できるため、生じた利益のすべてが会社に還元されるというメリットがあります。
かつての日本はクローズドイノベーションが主流でしたが、グローバル化の流れやニーズの多様化により、自社のみでイノベーションを実現するのが困難になってきています。そのため現在は、多くの会社がオープンイノベーションへとシフトしています。
リノベーション
リノベーションとは、既存の状態を修復することを意味します。通常、建物に工事を施して新たな価値を加え、資産としての評価を高める不動産用語として用いられます。
イノベーション(innovation)と文字の並びが似ていることから混同されがちですが、イノベーションは新たな価値の創造、リノベーションは既存の価値の更新であるため、その意味は大きく異なります。
イノベーションを知って会社経営に活かしましょう
イノベーションとは、単なる技術革新にとどまらず、これまでには存在しなかった価値を創造することを意味します。
シュンペーターの提唱する5つの定義や、近年のビジネスモデルとなっているオープンイノベーションなどの概念は、ビジネス用語として理解しておくことが大切です。
イノベーションは、規模に関係なく、あらゆる会社にビジネスチャンスをもたらします。既存の製品やサービスにとらわれすぎることなく、イノベーションを意識した経営戦略を打ち立てましょう。