現代において、リスクマネジメントは会社にとって取り組むべき課題です。しかし、リスクマネジメントについて、すぐに理解するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
ここでは、リスクマネジメントの取り組み方法や、リスクの種類や対策について、わかりやすく解説しています。また、リスクマネジメントと似たような用語についても解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
リスクマネジメントとは?
リスクマネジメントとは、会社経営において損失を生じうるリスクを、事前に想定して対策を講じることです。
リスクマネジメントが重要視される前は、リスクの種類や規模が想定の範囲内だったため、どの会社もリスクを完全に防げるという考え方でした。
しかし、インターネットの発達により業務が複雑化し、人々の価値観の変化が起こり、以前では考えられなかったようなリスクが、発生するようになっています。
そのため、リスクを完全に防ぐのではなく、リスクを管理するというリスクマネジメントの重要性が増しています。
リスクヘッジとリスクアセスメント、クライシスマネジメントとの違い
リスクマネジメントには似た用語として、リスクヘッジとリスクアセスメント、クライシスマネジメントがあります。どれもリスクに対する会社の手法を指す用語ですが、内容が異なります。
リスクヘッジは、投資や事業などで予想されるリスクが許容範囲におさまるように低減・分散する手法です。
例えば、トラブルが発生したときに備えて、供給路を分散する、店舗を複数出店することで、売り上げが落ちてもほかでカバーできるなどの、失敗・損失に備えて対策を講じます。
リスクアセスメントは、潜在しているリスクを見つけて事前に除去する手法です。会社や職場で、発生することが予想できる危険性を事前にリストアップし、マニュアルや労働環境の改善などをおこない、労働者全員で対抗策や解決策を共有します。
クライシスマネジメントは、危機管理とも呼ばれ、事業の継続や組織の存続に関わるような危機に対して対策を講じる手法です。たとえば、大規模な自然災害が発生した場合に備えて、初期対応のマニュアルや二次被害の回避計画を作成することを指します。
リスクヘッジはリスクの低減・分散の手法、リスクアセスメントはリスクの回避、クライシスマネジメントはリスクが発生した後の対応策といった違いがあります。
リスクマネジメントにおけるリスクの種類
リスクマネジメントにおいて、リスクには「損失だけのリスク」と「損失と利益の両方が起きるリスク」の2種類があります。リスクの種類が異なれば、取るべきリスクマネジメントも異なります。
損失だけのリスク
損失だけのリスクは、文字通り会社の業績や評判に対して損失だけを生じさせるリスクのことで、純粋リスクとも呼びます。その例としては、以下のようなものがあります。
- 労働者が社用車で自動車事故を起こす
- 会社の工場で火災事故
- 台風により部品の供給網が停止
- 地震により保管していた商品が破損
これらのリスクは前触れもなく発生するため、個々の純粋リスクを予測して対策を講じるのは困難です。しかし、発生することを見越して対策や金銭での補填を用意しておくことは可能です。
損失と利益の両方が起きるリスク
損失と利益の両方が起きるリスクのことを投機的リスク、あるいはビジネスリスクと呼びます。その例としては、以下のようなものがあります。
- 輸出に依存している事業で急激な円安・円高が発生
- 主力製品を製造している海外の工場における情勢の変化
- 法的規制の変更により従来の事業が存続できない
- 技術革新により主力製品が売れなくなる
一見すると、どれも損失しか生まない純粋リスクのように思うかもしれません。しかし、社会科学的要因で発生するリスクは会社に利益を生む可能性もあり、会社を成長させるためにはリスクを承知で進む必要もあります。
リスク対策の2つの方法
リスクマネジメントは主に、リスクコントロールとリスクファイナンシングの2種類の方法があります。
どちらもリスク対策に有効な方法ですが、リスクの発生前か後のどちらに対策を講じるかという違いがあります。
リスクコントロール
リスクコントロールはリスクが発生する前に備えておくリスクマネジメントで、次の4つの手法があります。
- 回避…リスクを伴う事業や投資を中止する
- 損失防止…リスクを未然に防ぐため、対策や予防措置を講じる(リスクアセスメント)
- 損失削減…リスクが発生した際の拡大を防止・軽減するための対策を講じる(クライシスマネジメント)
- 分離・分散…リスクを一ヶ所に集中せず、分離・分散させる(リスクヘッジ)
つまり、リスクコントロールは、リスクの発生頻度や損失の大きさを削減する方法になります。
リスクファイナンシング
リスクファイナンシングは、リスクが発生した後のことを想定して備えておくリスクマネジメントで、次の2つの手法があります。
- 移転…リスク発生時に第三者からリスクの損失補填を受け取る
- 保有…リスク発生時に備えてリスクの損失補填分を貯める
つまり、リスクファイナンシングはリスクによって生じた損失を金銭で補填する方法になります。
会社で起こりうるリスクの事例
会社で起こりうるリスクを「経営リスク」、「災害・事故リスク」、「政治・経済・社会リスク」の3つに大別して解説します。なお、これらのリスクはあくまでも一例であり、会社の業績や規模、事業形態、業務プロセスにより変化します。
経営リスクの事例
経営リスクは、会社を経営する過程で常に発生する可能性があるリスクです。経営リスクには次の事例が該当します。
- 製造・販売した商品のリコールや欠陥が発覚
- 従業員のセクシャルハラスメントが問題化
- 粉飾決算や巨額の申告漏れ
経営リスクは会社を経営していれば発生する可能性があるリスクのため、完全に予測するのは困難です。
しかし、放置しておくと発生した時の損失が計り知れないため、事前にマニュアルを作成する、労働者の意識改善をするなどのリスクマネジメントをおこないましょう。
災害・事故リスクの事例
災害・事故リスクは、事前に予測することが難しいリスクで、損失によっては会社経営に大きな影響を与えます。災害・事故リスクには次の事例が該当します。
- 予期していない台風、地震による生産設備の停止
- 業務中に起こる労働者の交通事故
- コンピューターウィルスによるサーバーの停止
災害・事故リスクは発生する確率こそ低いですが、発生すると会社の経営に大きな影響を与えやすいです。
そのため、事前に発生した場合の行動計画やマニュアルを作成する、リスクを分離・分散するなどのリスクマネジメントが大事になります。
政治・経済・社会リスクの事例
政治・経済・社会リスクはひとまとめにカントリーリスクとも呼び、会社に関係する国の環境変化がもたらすリスクです。政治・経済・社会リスクには次の事例が該当します。
- 法律や制度の急激な変化により、従来の業務が遂行できなくなる
- 国際社会の圧力により外国との取引が阻害、破綻する
- 為替や金利の急激な変動により、損失が発生する
カントリーリスクはほかのリスクに比べて影響力が大きく、回避や対抗策を講じるのは難しいです。
一方で、環境変化は損失だけでなく利益を生む可能性もあるため、利益を逃さないようにリスクマネジメントをしておくべきです。
リスクマネジメントの取り組み方法
経済産業省中小企業庁の「中小企業白書(2016年版)」(※)によれば、リスクマネジメントのプロセスは次のとおりです。
- リスクの発見及び特定
- リスクの算定
- リスクの評価
- リスク対策の選択
- リスク対策の実施
- 残留リスクの評価
- リスクへの対応方針及び対策のモニタリングと是正
- リスクマネジメントの有効性評価と是正
重要なのは、自社内でどのようなリスクがあるのかを正確に発見すること、リスクに対応する施策を作成して実行すること、実行した結果を分析して修正することの3つです。
自社内だけでリスクマネジメントをおこなうのが難しい場合は、リスクマネジメントのコンサルティング・サービスに依頼するのも選択肢の1つです。
もし、自社内でリスクマネジメントをおこなうなら、その担当者に資格を取得させることも検討してみましょう。
リスクマネジメントに関係した資格には、一般財団法人リスクマネジメント協会の資格と内部統制評価指導士(CCSA)資格などがあります。
一般財団法人リスクマネジメント協会では、欧米だと専門職として地位を確立している「リスクマネージャー」相当の知識取得を目指して資格を設置しています。
内部統制評価指導士(CCSA)資格は、主に経営リスクに関する内部監査を国際的におこなう内部監査人協会(IIA)の認定資格になります。
(※)出典:経済産業省「4 リスクマネジメントの必要性」
リスクマネジメントは会社で積極的に取り組むべき課題
リスクマネジメントは、会社において発生するリスクを管理する手法です。リスクには損失しか出さない純粋リスクと、損失と利益の両方が起きる投機的リスクの2種類があり、リスクの種類によって、適切なリスクマネジメントの手法が異なります。
現代においては、業務の複雑化や人々の価値観の変化により、リスクが発生する頻度と被害は増大しています。そのため、リスクマネジメントは会社を維持・成長させるために積極的に取り組むべき課題です。