BPO、ITO、KPO……これらはすべて アウトソーシング(外部委託)関連の用語ですが、どのような意味か説明できる人はあまり多くないかと思います。この記事ではアウトソーシングの背景やメリットとデメリット、アウトソーシング関連の用語や業態についてご紹介します。
アウトソーシングとは?
アウトソーシングとは、自社ではない外部(アウト)から業務リソースを調達(ソーシング)することを言います。外部から調達する対象は、経営資源となる人材や、それに付随するサービスが多く、契約により外部調達することで企業活動を活発にする経営手法とされています。
アウトソーシングの歴史
アウトソーシングという用語がビジネスワードとして一般に認知されたのは、1989年にイーストマン・コダック社が情報処理部門をIBM社にアウトソーシングした事例と言われています。
イーストマン・コダック社のような高い技術力を持つ大手企業がIT分野でのアウトソーシングをおこなったことで、業務コストを軽減し、コア事業へ経営資源を集約するための有効な手段として認められることになりました。この事例は『コダック・エフェクト』と呼ばれています。
企業がアウトソーシングを導入する背景
企業のアウトソーシング導入にはどのような背景があるのでしょうか。
若年層の労働人口の減少
少子高齢化により若年層の雇用が年々難しくなってきています。特に労働集約型の業種業務の高齢化が深刻なため、後任の育成が難しくなり、アウトソーシングすることが多くなりました。
事業の多角化経営の拡大
事業の多角化が進み、経営資源を注力したい業務とそうでない業務が増えることで、アウトソーシングすることが多くなりました。
技術の進歩
クラウド型のWebサービスなど、これまで人力で作業していたものが自動化できるようになりました。同じコストで今まで以上のアウトプットが得られる場合も多く、効率化のためにアウトソーシング化した事例が多くあります。
競合との差別化
競合他社が5営業日でおこなっていることを、自社が3営業日でできればアドバンテージを得ることができます。時間がかかっている分野のみアウトソーシングすることにより、サービスレベルやスピードアップを実現した事例が増えています。
人材を外部調達する「アウトソーシング」と「人材派遣」。その違いとは?
アウトソーシングと人材派遣は同じような雇用形態と捉えられることもありますが、実は大きく異なります。2つの違いを表にまとめました。
アウトソーシング | 人材派遣 | |
---|---|---|
ビジネスの違い | 委託された業務を遂行する | 人材を派遣し労働力を提供する |
賃金発生 | 業務の遂行、成果品の納入 | 人材の派遣、及び派遣先企業での労働 |
スタッフとの 雇用契約 |
アウトソーシング会社or派遣会社との雇用契約 | |
業務指示 | アウトソーシング会社が指示 | 派遣先企業が指揮命令者 |
賃金発生の違い
アウトソーシングでは、委託された業務を遂行することで賃金が発生します。つまりプロジェクトの完了やアウトプットの納品完了後に賃金が発生するということです。
一方、人材派遣は、派遣先での労働時間に応じて賃金が発生します。労働力を提供しているため、スタッフが働いた時間で賃金が発生します。このため時給換算で計上されることがほとんどです。
業務指示の違い
アウトソーシングの場合は、アウトソーシング会社が指示を出しますが、派遣社員は常駐先の社員から指示を受けます。
アウトソーシングのメリット・デメリット
アウトソーシングを導入するメリットとデメリットは以下のような点があげられます。
アウトソーシングのメリット
- 育成コストと時間の削減
- 業務スピードと質の向上
- 会社のコア・コンピタンスに集中できる
アウトソーシングの最大のメリットは、時間の削減です。業務を知らない従業員の育成にかかる時間や、会社の専門外業務に関わる部分が煩雑化するのを防ぐ目的になります。そうしたことが、業務スピードと質の向上や、他業務への集中に繋がります。
アウトソーシングのデメリット
- 情報漏洩のリスク
- ノウハウが蓄積できない
- 業務の進行管理の複雑化
アウトソーシングのデメリットは、外部に委託することによる情報漏洩というリスクがあるため、受託側に情報運用に関するルールを徹底させることが必要になります。また、委託した分野のノウハウを内部に蓄積できないことや、委託した業務を管理する部門が必要になる場合もあります。
【人事担当は知っておきたい】アウトソーシングの種類と業務
人事担当はアウトソーシングにはどのような種類があり、その業務内容はどのようなものか把握しておきましょう。以下でアウトソーシングの種類と業務内容例について説明をしていきます。
アウトソーシングの種類
アウトソーシングの種類には大きく分けてBPO・ITO・KPOという3種類があります。それぞれの特徴については以下のようになります。
【BPO】
ビジネスプロセスアウトソーシングの略称です。人事、総務、経理など会社運営上のバックオフィス業務を外部委託する形態を指します。
【ITO】
インフォメーションプロセスアウトソーシングの略です。自社のコンピューターやインターネット技術など情報システムに関する業務の外部委託を指します。
【KPO】
ナレッジプロセスアウトソーシングの略です。医療品開発や航空機設計など、調査や分析が難しい知的業務を外部委託することを指します。
アウトソーシングの具体的な業務例
アウトソーシングが導入しやすい業務分野としては以下のようなものがあります。
給与計算
従業員の給与計算業務や年末調整などの作業の委託をおこないます。専門性の高い細やかな給与計算業務の代行により、業務の効率化をはかることができます。
経理や会計
毎年改正される税法や社会保険の内容を把握した受託者が経理や会計をおこないます。日次、月次の決算業務から決算書の作成、売掛金・買掛金の管理、仮払いや立替経費精算のチェック代行といったサービスがあります。
社内ネットワークの構築
会社にとって必要不可欠なネット環境の構築を、知識のある受託者がおこないます。専門的な技術者によるネットワークの構築、構築後のサポート、システム担当者の派遣といったサービスがあり、ネットワークにトラブルが発生した際にも迅速な対応ができます。
営業事務
営業に関わる多数の事務業務をおこないます。事務業務を委託することで営業職の人がコア業務に集中することができます。名刺データなどの顧客データ管理、DMやチラシなどの顧客アプローチツールの制作、業務リサーチなどのサービスをおこないます。
新規開拓(テレアポ)
新規開拓にもコア業務以外の労力が必要になる場合があります。新規開拓のためにテレホンアポイント形式で集客をおこないます。これにはコール課金型、費用固定型など予算に合わせた外部委託が可能になっています。
コールセンター
クレーム対応などのためにコールセンターを設置する場合は、場所やシステム、人員の確保が必要です。そういった費用の削減のためにアウトソーシングにてコールセンター業務をおこないます。
商品の製造(OEM)
メーカーの製品開発・生産を、自社の生産ラインではなく外部メーカーの生産ラインへ委託します。工場や製造設備などを自社で構えないため維持コストを減らすことができ、小ロットでの生産も可能なため大量の在庫を抱えるリスクも低減できます。
在庫管理
在庫管理や棚卸し、適正な在庫の維持をおこなうことで、管理コストを削減できます。梱包・出荷作業の代行、小スペースからの倉庫貸し出し、出入庫管理業務の代行といったサービスがあります。
アウトソーシングに不向きな業務例
さまざまな業種や分野でのアウトソーシング化が進んでいますが、アウトソーシングには向かないジャンルの業務もあります。
企業戦略の立案や意思決定に関する業務
新規事業の立ち上げや、特定事業の子会社化など会社の将来に関する重要な意思決定の分野はアウトソーシングには向いていないといわれています。
コア業務(企業の利益や売上を直接生み出す業務)
コア業務は企業の利益や売上を直接生み出す業務なので、アウトソーシングには向きません。業務内容として営業のような折衝業務や、サービス紹介、見積もり説明のための商談などは、引き続き自社でハンドリングしたほうが良いとされています。
アウトソーシングに向いているのは、それ自体で利益を直接生むことがないノンコア業務とされています。
【人事担当は知っておきたい】アウトソーシングを検討する上で知っておきたい用語集
一口にアウトソーシングと言っても委託の形態や分野により呼称が異なる場合があります。
ここでは、確認しておきたいアウトソーシング関連の用語をまとめました。
マルチソーシング
業務の外部委託形態のうち、業務分野ごとに最適な受託企業を選択し、複数の受託企業と契約を結ぶ形態のことを指します。部門の業種を丸投げするのではなく外注と内製の最適化をはかる考え方の広まりから定着したとされています。
クラウドソーシング
群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、細分化された業務を不特定多数の人に委託する形態です。テキストライティングやデザイン案、データ入力などの単純作業から給与計算やプロジェクトマネジメントまで幅広い業種、業務で活用されています。
オフショアアウトソーシング
自社でおこなっていた業務の一部または全部を物価の安いオフショア(海の向こう=海外)の外部企業に委託する形態です。グローバルソーシングとも呼ばれます。技術サポートや問い合わせ窓口となるコンタクトセンター業務やソフトウェア開発などのオフショア化が2000年代以降盛んにおこなわれています。
コ・ソーシング
委託企業と受託企業が対等の立場で共同業務に当たる外部委託の形態です。完全に外部委託してしまうと、自社にその業務に関するスキルやノウハウが蓄積されないというデメリットが発生します。コ・ソーシングであれば、受託側の持つ専門的な知識やノウハウ、技術、技能を自社に還元することができます。また受託側も、事業が成功すれば契約分以外も追加利益を受けることができるため双方にメリットが生まれるのが特徴です。
インソースとアウトソース
内製と外注のことを指します。どの業務を自社でまたは外注化するのかを判断する際にセットででてくる用語です。インソース・アウトソースの判断には利害関係者が多く絡む場合があるため、業務をコア領域とノンコア領域、専門性のあるなしなどに分けて整理する必要があります。
アウトソーシングを上手に活用して効率化を
これまで会社が自社でおこなっていた業務やサービスをアウトソーシングする動機としては、コストダウンやリストラの一環など、「仕事を外に出す」というどちらかというとネガティブなイメージがあるものでした。
ところが、今後は労働人口の減少が急速に進むため、これまで以上に少ない人数で効率よく業務を回す「生産性の向上」が必須になってきており、アウトソーシングが活用されるようになってきました。
経済産業省が平成28年にまとめた「第4次産業革命への対応の方向性」によれば、“労働力人口は、 出生率が回復し(2030年に合計特殊出生率が2.07まで上昇)、かつ女性がスウェーデン並みに働き、高齢者が現在よりも5年長く働いたとしても、 2030年には6300万人程度、 2060年には5400万人程度まで減少する”と予測されています。
ビジネスや会社自体を存続させるためにもAIを含めたアウトソーシングを上手に活用することが求められています。
【参考文献】